Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル

     “春まだ浅く”
 


各所へ築山や曲水などなどが設えられた広大な庭園には、
見目にも個性の豊かな、それは様々な木々が配されていて、
四季折々 華やかな花がお目見えしては、
あでやかな姿でそこに住まわれる高貴な御方を癒し慰めている。
日之本の各所から取り寄せられたそれら、
中には寄進されたものもあるが、
この土地へ
この宮廷が開かれた当時からというほど
それは古くからあるのが、
ずんと立派な佇まいを皆様からも馴染まれている枝垂れ梅。
大元の幹はそれなりどっしりと荘厳で、
高みの梢の先から四方八方へ
柳のようにしなやかに垂れる枝々が、
赤みを帯びた臙脂に染まり。
堅い蕾が育って育っての末に、
卵の殻を割り幼い雛が生まれいづるよに、
可憐な薄紅の花が顔を出すと。
宮中にもやっとの春が来たぞと、
誰もがほっこりお顔をほころばせるのもお決まりで。

 「今年はまた、花の厚みがありますこと。」
 「ほんに。」

帝様も毎朝のように御眸を向けては愛でておいでだし、
もっとその関心を向けておられるのが、
花のような顔容を女官らや高貴な筋の娘御たちから
慕われている、
桜ノ宮様との異名もお持ちの、東宮様に他ならず。
そろそろその貫禄なり威容なりを示すよに、
お顔も肢体もふっくりぷっくりして来始める年頃でもあろうに、
まだまだ しなやかすんなりした四肢を伸びやかに保っておられ。
表情豊かで瑞々しいまでの甘い風貌が、
そのまま華やかな花のようと、
宴や国事にその御姿を見せられるのを関係各位の皆から期待され。
何の気なしに にこり微笑まれれば、
年頃の女官らが一斉に 御簾の陰にて黄色い声を密かに上げるわ、
はたまた柱へ凭れ、物憂げに何か考え込まれておればおったで、
年嵩の女御らが何とも悩ましいことよと、
桧扇の陰にてお顔を寄せ合い、
いつまでもいつまでもひそひそと噂をするわ。
その一挙手一投足が宮中の内宮を善くも悪くも活気づかせる、
ちょっぴり罪な存在でもあり。

 「……あら。」

暦の上ではすっかりと、実際の気候やお日和もそろそろ、
春催いのと言っていいだろ 暖かさや華やぎを見せつつある中。
宮廷自慢の枝垂れ梅の傍らに、
艶冶な雰囲気では負けぬ存在が佇んでおわすのへ、
渡り廊下を急いでいた女官が気づいてその足を止める。
同じ職務のお仲間だろう、
お揃いのいで立ちをしたやはり女官が、
これこれどうしたのと声を掛けつつ同じ方を見やったそのまま、

 「……あ。////////」

こちらもまた立ち止まり、見る見ると頬を染めたのも無理はない。
淡い色合いは春の色襲(かさね)か、
平服の狩衣姿でおわすのも風情のある、
東宮様こと桜ノ宮様が 供も連れずに佇んでおいで。
やや長身のその御姿は、
朝からよう晴れて春めきも濃い明るさの中、
満開を迎えている梅の花房に負けぬ華やかさで いや映えて。
まだまだお若いがゆえの甘い優しさをたたえし横顔は、
まるで、言葉が通じ合うもの同士で
親しげに何事かを語らいあっておわすよな、
そんな気配さえ伺える 和やかさに満ちており。

 「いかがなされたのでしょうか。」
 「さてねぇ。」

今日は国事行事もない日だから、
羽を伸ばしておいでなのかも知れぬ。
何しろ、春が来るのに合わせ、
この新しい一年も五穀豊饒をどうかよろしくとばかり、
神へと奉じる催しも目白押しだし、
在京官吏への叙目もあれば、
春を知らせる花々を見ようぞ愛でようぞという名目の
“花見の宴”も様々に開かれ始める頃合いで。
そういったお忙しさから解放されて、
羽を伸ばしの息抜きにと、
今が盛りのお気に入りの梅を眺め、
心癒されておいでなのよと。
こそこそ囁き合っておれば、

 「…?」

こちらからの視線に気づかれたか、
甘い顔容をこちらへと向けて来られたものだから、

 「…っ!」
 「きゃっ。」

特段 不敬なことをしていたわけではないけれど、
それ以上は今帝しかおられぬほどの
そりゃあ高貴な御方を盗み観していたようなもの。
それまではうっとり夢心地でいたものが、
お声もかけず、顔も伏せずの失敬を、
どうお詫びしたものかと。
慌てふためき、おどおどと手を取り合っての
打って変わって恐れおののいておれば。

 「見つかっちゃった。」

ぱっちりした双眸を柔らかくたわめ、
それは輝くような笑顔を見せつつも…
何とはなし、違和感のある言い回しをなされた東宮様で。

 「……………はい?」

普段からも取り澄ましたりはせずの
稚気あふれる物言いをなさる気さくなお人柄なれど。
今の言いようは、そういった
大人びた御方が余裕もてお見せになるという、
茶目っ気から出たそれというよな鷹揚な響きのものではなかったような、と
女官らが二人揃って感じたのとほぼ同時、

  ぽぽんっ、と

どこかで紙細工の風船が弾けたような、
不思議で軽やかな音がして。
じっと見ていたはずなのに、
一体どうやって入れ替わったものだろか。
それはそれは麗しい貴公子様が、
あっと言う間の早変わり、
陽に暖められたか、甘い色合いの髪を
頭頂に高々と結い上げてお尻尾にした格好も愛らしい、
水干姿の童子が二人、
チョコンとその場に現れて。
そしてそして、今までそこにおわしたはずの、
東宮様が消えてしまわれたものだから、

 「ひ…っ。」
 「あれぇ…。」

理解しがたい、しかも途轍もない一大事。
混乱が限界を超えたのだろう、
ご婦人二人がその場へ
へなへなと倒れ伏してしまい、

 「……………から、あ、
  あんなところにいましたよ。」

 「おやまあ、遠出をしたもんだね。
  これでは隠れんぼというより
  鬼ごっこだ。」

どこか楽しそうに微笑って紡がれたお声こそ、
東宮様のそれだったようなと、
途切れかかる意識の隅っこで思った女官には
気の毒だったが、
今朝からお越しになっておられた
客人のお連れ様、
ずんと幼い坊やでありながら、
まさかに他人へも化けられるほど
咒術に長けているなんて、
家人の皆様も気づいてないことだったのだもの。
注意や警戒のしようもないというもので。

 「せぇな、おはにゃvv」

 「きえいねぇvv」

 「ホントだね。
  これが仰せだった梅ですね。」

 「そうだよ、見事だろう…って、
  あれ? あそこに
  誰か倒れてないかい?」

小さな坊やたちがその原因だなんて、
あとから来たお兄さんたちには
判りようもなく。
宮廷までも、
にぎやかしい春になりそな気配だと、
ふくよかな花をつけた枝垂れ梅が、
新しい風の吹くのへと、
ほこりと微笑った春の陽だまり。




    〜Fine〜  15.03.14.



  *桜庭くん、お誕生日でしたね。
   うっかり忘れ去るとこでした。(おい)


ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv  

ご感想はこちらへ or 更新 & 拍手レス


戻る